
本記事では、零細企業への転職前に確認しておきたい、下記の内容について書いています。
- 退職金制度:制度が整備されていない、また大企業と差が出やすいです。
- 社会保険:整備されておらず、将来受給できる年金や受けられる保障に影響が出る場合があります。
- 労働時間:労働基準法の適用条件が違うため、大企業よりも長時間労働となる可能性があります。
1.零細企業に転職する前に確認すべき3つの条件
零細企業に転職する前に確認した方がいい3つの条件について、具体的な内容やチェックポイントを解説します。
退職金制度
退職金について労働基準法で定められていることはありません。つまり、退職金を支給しなくても違法ではないのです。そのため、実はある程度規模の大きい会社でも退職金制度が整備されていないケースがあります。
人事院が平成29年4月に発表したデータ(*)によると、 企業規模50人以上の民間企業のうち退職給付制度がある企業は92.6%でした。
一見すると、ほとんどの企業に退職金制度が整備されているように感じますが、裏を返せば従業員が50人以上いるような企業でも7.4%では退職金を受け取れないということになります。
また東京都産業労働局が発表した平成30年のデータ(**)によると、従業員が10人~299人の都内中小企業のうち「退職金制度がある」と回答した企業は71.3%、「退職金制度がない」と回答した企業が24.2%です。
従業員数が10〜50人未満の企業を調査対象にすると、退職金制度のない企業の数が跳ね上がることから、さらに規模の小さい零細企業となると、より退職金制度のない企業が多いことが予測されます。
長く勤め、それにふさわしい退職金を得たい場合は、転職活動の際に企業情報をよく調べ、退職金制度がきちんと整備されているか確認しましょう。
(*)人事院|民間の退職金及び企業年金の調査結果並びに国家公務員の退職給付に係る本院の見解の概要
(**)東京都産業労働局|中小企業の賃金・退職金事情(平成30年版)

社会保険
社会保険とは、健康保険、厚生年金、介護保険、雇用保険、労災保険などのことを指します。そして法人の場合、事業主は法律によって社会保険への加入が義務付けられています。
しかし、下記のような条件に当てはまる零細企業の事業主は法的に社会保険に加入する義務がありません。
- 従業員が5人未満の個人事業主
- 農林水産業
- 理美容業、飲食業などのサービス業
つまり、転職先の零細企業が上記条件に当てはまる場合、転職後に会社を通して社会保険に加入ができなくなる可能性があるということです。
この場合、自身で居住地の市区町村を通して健康保険や国民年金に加入しなければなりません。一般的に会社を通して加入する社会保険の方が、保障や年金額が手厚い傾向にあるため、将来的に保障や年金を受け取る段階になって差が出てきます。
特に注意したいのが、雇用保険や労災保険。転職後に退職した場合に雇用保険を受けられませんし、仕事や通勤中にケガをした場合に労災保険が下りません。
ご自身の保険でまかなうつもり、それ以上に夢を追いたい、など会社を通して社会保険の加入ができないことを理解した上で転職するなら良いでしょう。しかし、転職後に「こんなはずではなかった……」とならないように、事前に調べておきましょう。
労働時間
零細企業の場合、大企業と比べて労働時間が長くなる可能性があります。労働基準法の中でもよく知られた「就労時間は1日8時間まで、1週間で40時間まで」という規定がありますが、実はこの決まりは従業員が10名以下の企業には適用されません。
10名以下の企業の場合は「1週間44時間まで」となります。従業員が10名を超える企業で1週間に44時間働けば、4時間分の残業代がつくので、もしかすると感覚として損した気分になるかもしれません。
もちろん仕事の内容や責任の大きさ、やりがいなど他の面も含めて総合的に考えるべきなので、労働時間の一面だけで判断はできませんが、法的な違いがあるという認識は必要です。
労働時間が気になる場合は、応募前、少なくとも面接の際に確認しておきましょう。

2.零細企業とは?
ここまで「零細企業」という言葉と使ってきましたが、その定義を説明できるでしょうか? また、中小企業や小規模企業(小規模事業者)、零細企業の違いは何でしょうか?
言葉の定義や違いを知り、零細企業の特徴を正しく理解しましょう。
零細企業の定義
結論からいうと、法的に「零細企業」に定義はありません。ただ文字の組み合わせからも想像できるように、とても規模が小さい企業のことをいいます。
家族や親族だけで事業をしているような会社や一人社長、社長と事務員しかいないような企業がイメージしやすいでしょう。
中小企業、小規模企業、零細企業の違い
まず小規模事業者は業種により、以下のように定義されています。
業種分類 | 小規模企業の定義 |
小売業、卸売業、サービス業 | 従業員が5人以下 |
製造業、建設業、その他業種 | 従業員が20人以下 |
宿泊業、娯楽業 | 従業員が20人以下 |
次に中小企業庁によると、中小企業は下記のように定義されています。
業種分類 | 中小企業基本法の定義 |
製造業その他 | 資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人 |
卸売業 | 資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人 |
小売業 | 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人 |
サービス業 | 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人 |
中小企業の定義も「〜以下」なので、広い意味では中小企業の中に小規模企業や零細企業も含まれることになりますが、わざわざ区別する意味で「中小零細企業」といわれる場合もあります。
ここで注意したいのは、中小企業、小規模企業、零細企業の違いはあくまで従業員数や資本金で区切られ、利益(経営状態)に左右されないということです。
つまり、従業員50人の中小企業よりも、従業員2人の零細企業の方が儲かっていて経営状態も良好、給与が良いケースもあり得ます。

3.零細企業のメリットとデメリット

本章では、零細企業の特徴をメリット・デメリットに分けて解説します。ここまで解説したように、転職は条件や規模だけで決めるものではありません。あなたの生き方や目指すものに合うのかといった視点がとても重要です。
零細企業のメリット
零細企業のメリットと内容は下記の通りです。
- 経営者と距離が近く経営に関わることが学べる
社長や経営幹部と距離が近いため、考え方や経営、マネジメントなどを学びやすい環境にあります。
- 大きな仕事を任せてもらえる
そもそも従業員数が少ないので、転職直後でも大きな仕事や責任ある仕事を任せてもらえ、大企業にいたときよりもやりがいを感じられる人も多いです。自分の存在を組織の歯車として感じられなかった人には魅力的かもしれません。
- 自分の努力が会社の業績に繋がる
大企業に比べ、自分の努力が会社の業績に直結しやすいです。頑張り次第で自分好みの社風に変えられる可能性もあります。
- オールマイティな人材になれる
大企業だと細かく部署が分けられ、他部署の仕事内容はほとんど分からない、といったこともありますが、零細企業は人が限られるだけに、さまざまな業務をこなす必要が出てきます。その結果、会社の経営や事業の一連の流れがわかるようになります。再度転職するとなったときも貴重な人材になれるかもしれません。
- コミュニケーションが取りやすい
零細企業はそもそも従業員数が数人〜10人程度なので、コミュニケーションが取りやすいです。アットホームな雰囲気の会社も少なくありません。
- 転勤がほぼない
零細企業は支店を抱えること自体が少なく、また支店があっても近郊のことが多いので、引っ越しを伴うような転勤はほとんどありません。
零細企業のデメリット
零細企業の気になるデメリットを簡潔にまとめました。
- 経営者の資質に左右される
従業員の少ない零細企業では経営者の力が良くも悪くも大きく影響します。そのため、会社の経営や業績は経営者の資質に左右されやすいです。
- 休日が少ない
零細企業は大企業に比べて週休二日制が進んでいないところが多いため、休日が少ない傾向にあります。ただし、これは企業によるので確認することが大切です。
- 研修や教育制度が整っていない
限られた人数で仕事をしているため、制度として研修や教育のシステムが整っていないことが多いです。「やりながら覚える」といった、昔ながらの職人的な方法で仕事を覚えていくことも少なくありません。
- 福利厚生制度が整っていない
福利厚生も制度として整っていないことが多く、大企業にいた頃は当たり前に使えていたお得な割引サービスなども使えなくなることがあります。
- 人間関係が拗れた時に居づらい
従業員数の少ない零細企業では、人間関係がこじれたとしても、部署の異動や顔を全く合わせないで仕事をするといったことが難しいです。解決するのを待つか我慢するか、転職や退職を考えるケースもあるでしょう。
- インターネット上で社内の情報を得られにくい
零細企業はインターネットによる情報の開示が進んでいないところも多く、口コミ情報なども得られにくいです。そのため、転職前の情報収集が大変な可能性があります。
4.零細企業へ幸せな転職の秘訣は事前調査
零細企業への転職には事前に確認すべきこと、理解すべきことがいくつかありますが、メリットでも紹介したように、規模の大きな会社では得がたい経験ややりがいをつかめる可能性も大いにあります。
とはいえ、情報が表に出づらい零細企業への転職を成功させるには、がんばって事前に社内の情報を調べるしかありません。
インターネットで検索を重ねる、関係者に話を聞く、面接時に尋ねるといったことに加え、より安心を得たいのであれば転職エージェントを活用しましょう。
転職者本人が聞きづらい条件や制度面についても、エージェントを通して聞けるので波風が立ちにくいです。
